Titre JADE
Couverture JADE

FACTA次号では世界最大の鉄鋼メーカー、アルセロールミタルのジャン・イヴ・ラマンさんにインタビューした。

彼とは不思議な縁で出会った。先日、日仏学院でフランスの「ラ・トリビューン」誌編集長と鼎談した際に、聴衆のなかにいらして質問されたのだ。やけに日本語が上手な人で、日本のメディアのインタビューを受けたことはあるのか、と聞いたら、07年10月に朝日新聞で仏和・和仏ミニ辞書について取材されたことはあるが、アルセロールミタル(もしくはその前身のアルセロール)の日本代表としては受けたことがないという。

もったいない! 7月に帰国する前に「ぜひ」とインタビューをお願いし、面白いエピソードをたくさん聞くことができた。その際、彼に約束したことがある。6月に出たばかりの「ジャッド 生きることの不思議」(河出書房、税別1900円)の紹介である。ラマンさんの奥さんの寺田文子さんと、文子さんの幼友達の石川弓子さんが翻訳したフランスのベストセラーだ。帯には「少女版『星の王子さま』」とあり、50万部以上売れたという。インタビューでは、そこまで載せられないので、番外編としてここで紹介しよう。

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読んで驚いた。子ども向けなのに、甘味料がない。翻訳も漢字をふつうにつかっていて、児童本にありがちな平仮名だらけではない。

少女ジャッドは、「世の中をおいしくするために」考え遊びする女の子なのだ。つまりテツガクする少女である。で、最初に考えるのは大文字の「D」、つまり神さま(Dieu)のことだ。

ひとつの謎が、鳥のように頭の中で飛びまわって、枝に舞い降りる。謎とは神の遍在。見えないのに、どこにでもいるってなぜなの? ある朝、幸せな気分で目覚めたとき、体の中に青空が広がり、 ギリシャ人のいう「泡立ち」を感じて、ジャッドは神を実感する。耳にささやく「ジュテーム」……一瞬が永遠に溶けあうとき。そこから思考が始まる。

謎という見えない鳥は、サンテスプリ(聖霊)と呼ばれているから、カソリック神学が土台になっているのだろう。それを少女に追わせる形で「考え遊び」は、巧みに読者をいざなって、晴れと雨、 キボウとシンパイの表裏一体へと導いていく。

ママが聞かせる「二人の占い師」のエピソード。そして親友ラファエルとの会話。少し引用しよう。

君は滝を見たことがあるかな。まるでなだれのようで、永遠の生まれ変わりのようだよ。水はおびただしく落ち続け、流れれば流れるほど、どんどん湧いてくるんだ。エネルギーと情熱を使えば使うほど、 豊かな滝になる。水って言うのはまとまってどっと出るほど純粋になるんだ。君だって、同じなんだよ。

「あげればあげるほど豊かになる」――というサンテグジュペリの言葉まで持ち出して、ラファエルは利他のテツガクを説いている。

こういう仕掛けがふんだんにあるから、あとは読んでみてください。見神から化神へと、少女ジャッドはいつしか、読者を誘惑する巫女のようになる。

絵はすべて切り絵のような影絵だ。『星の王子さま』のように、象をのんだ蛇や、バオバブの星など、目を楽しませるイマージュなない。テーマが「神」だけに、考え遊びの邪魔になる絵は避けたのだろう。

ジャッドがどんな顔をしているかは「鏡の中にある如く」わからない。仕草のシルエットだけだ。しかしこれほどよく思考の世界を象徴するものもない。ものを思うとは、影を歩むことだからだ。

で、最後は? もちろん、神がウインクを返してくれる。

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© KOTOBA 2009, Printed in Japan, ISBN 978-4-309-90808-3